雪の夜、彗星探しの日記(弐)

雪夜彗星のブログ。内容も更新頻度もまちまちです。「弐」なのははてなダイアリーから移行したので。

自主製作映画「新代 鶴舞伝説物語」製作記


 2015年以来のBlender Advent Calendar企画の記事になります。前回は卒業制作「空花瓶」で3DプリンタBlenderの話をしました。
 それから3年が経ち、再びBlenderを使い作品を作ったのでこの企画に戻ってまいりました。が、正直に申し上げます。ワタクシ、Twitterを賑わす他のBlenderユーザーのように腕はあがっておりません。全く上がっておりません。
 ということでこのようなアンケートTwitterでやったところまさかの、「企画から最後まで」についての要望が多くなってしまいました。なので、今回は実写あり特撮ありCGありの短編の自主製作映画「新代 鶴舞伝説物語」についてBlenderに限らず広くこの製作について書こうと思います。
 まずはBlendxJP3でも上映した今作品の特報をご覧下さい。なお、こちらの特報はまだ一切のエフェクトが入っていないものになりますのでその点ご了承を。


企画の発端

 時は2016年3月。今住んでいる地元の映画祭で入選(一次審査通過)したものの入賞は果たせませんでした。「入賞」を目標としていただけに、次出す時は「グランプリを取れるものを作ろう」とだけぼんやりと考えていました。
 本当はこの翌年にリベンジをするつもりだったのですが、この時はまだ別の自主製作映画「俺ら、夏鳥」の撮影が終わらず今年まで持ち越しになりました。
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シナリオの構築

 映画を作り始める時、私はあらすじを書いてから企画書とシナリオを同時並行で作るのですが、今回はどのように物語を考えたかを簡単に書こうと思います。上記の特報では物語までは分かりづらいので映画祭に出した際のあらすじを以下に記載します。

鶴舞伝説」を知っているか。過去、戦で成果をあげたにも関わらず鎌倉に入れなかった源義経が宝物を埋めた時、鎌倉に 飛んでいく鶴を見て悲しんだという話だ。この話が伝わる大和市浅間神社にこの宝物が本当にあるのかと女子大生が探しにやって くる。先に来ていた一人が境内で折り鶴を見つけた時、一夜の物語が始まる。

 という事で地元に神社に伝わる「鶴舞伝説」を元にしています。
 今回は出品する映画祭が、地域に強く根ざしたものなので地元のネタを使ったシナリオは考えていました。その中で地元の伝説を使ってやろう、そして自衛隊の基地もあるからうまく使えないかと言うことで怪獣ものよろしく伝説を具現化させて自衛隊と対峙させよう、という発想に至ります。
 ここまで考えたら今度は地元の伝説を調べる事になります。地元の神社や資料館に出向いてみたり、インターネットで色々検索してみたりして使えそうな伝説を探し回りました。そこでネタにすると決めたのが今回の伝説。タイトルまんまなのでぜひリンク先を見てみて下さい。それを元にあらすじを決めました。
 そこから話を少しでもリアリティを持たせるために詳しい人に話を聞いたり、自衛隊の基地公開にでかけたりしつつ企画書とシナリオを進めていきました。

仲間のこと

 映画を作っているとよく聞かれるのが「役者ってどうしていますか?」と聞かれるので話しておきましょう。
 現状、過去の作品にお世話になった人の中で、登場人物に合いそうな方に声をかけていきます。また役者の知り合いが居そうな方にも企画書やシナリオを送ったり、演技未経験者でも登場人物の雰囲気に合えばお願いしたりすることもあります。
 ネットで時々募集することもありますが個人的には好きではありません。学生の頃、インターネットで広く募集しようとして面倒な人に絡まれた事もあるので抵抗があります。
 知り合いの知り合い、という形でつながりを辿っていく形の方がチームを維持しやすい、というのもあります。

 スタッフについては基本私一人で運用できるようにしてありますが、撮影日程が決まれば大学の同期などに声かけて来て貰うようにお願いしています。なかなか来て貰える事は少ないですが。

プロダクション進行

 シナリオ、キャストが決まりそのまま撮影、というわけではなくスケジュール調整やロケ交渉などもしています。
 さて、今回の作品、本当は8月頃にはキャストを決めて9月にクランクイン。10月下旬にクランクアップ、12月中旬に映画祭の締切があると踏んでいたのですが、ここでとんでもない事実が発覚します。
 「今年のこの映画祭の締切が11月15日」
 自分が出した時も、その次の年も同じ時期に映画祭を開催していたので締切の時期も同じだろうと思い込んでいたのが裏目に出てしまいました。想定よりも1ヶ月早い上に更にキャストの決定が遅れている状況だったので、いくつか考えを見直して製作のスピードを上げる事に。撮影においてはlogかつ4K10bitでの撮影を考えていたもののポストプロダクション環境が不十分なので処理が追いつかないのでシネライクガンマで1080pで撮影。音声も本当はレコーダーで別に収録するつもりをLINE OUTからカメラに音声を流し込む形で使用しました。
 それに編集は他の人にお願いして自分はVFXに集中する予定だったのですが、編集・VFXを並行して行うために合成がなくかつ撮影が早めに終わったシーンのみを別のスタッフにお願いする事にしました。

 さて、撮影の様子はこんな感じ。嘘です。撮影後におふざけで撮ったものです。
 使用したカメラはパナソニックGH5s、マイクはゼンハイザーMKE600、レコーダーはZoom H5という具合。
 撮影回数は3回ほどでしたが、実時間的には1日半程度です。特撮カットなどの撮影を含めると実時間で3日分ぐらいになりそうです。
 ここからはちょっと凝った撮影について少し取り上げたいと思います。

空撮

 エンディングや本編の素材としてあまり目立たないもののドローンを使い空撮を行いました。特報には入っていませんのでどこでどう使われているのかは上映をお楽しみに。夜の神社で飛ばしています。
 前述の通り、ここは自衛隊(と米海兵隊)の基地がある町。簡単にドローンを飛ばせるわけではありません。いくら人口密集地の飛行と夜間飛行について航空局から許可を持っていても自衛隊のやり取りは楽ではありませんでした。最初の問い合わせの時はたらい回し。

 ご覧の通り最終的には無事に許可は降りました。もう少し基地に近い場所だともっと大変だったかもしれません。

特撮

 自衛隊が出てくると書きました。となると自衛隊のメカも出さないと面白くないですよね。という事で今回は哨戒機のP-1が出てきます。
 ここはCGでやろうとも考えたのですが、学生時代に特撮をやっており、ウルトラマンなどのT監督と交流のある後輩が東京に来るという事で彼に手伝ってもらってミニチュア特撮をする事にしました。

 飛行機のモデルは1/300のエフトイズのP-1です。後輩には「この小さいのでやるんですか!?」って言われましたけれども……。
 機体の見える角度が変わらないカットであれば、照明を仕込んで静止画を撮影。旋回などがあるシーンは三脚に棒を固定しその上に飛行機のミニチュアを固定し、パン棒を使って動かしたのをスローモーションで撮影しています。

CGカット

 さてここからBlenderの話をします。使いどころはこちらの折り鶴。劇中では鶴舞伝説の宝物が具現化した鶴(巨大飛行物体)として出てきます。街の上をこいつが飛びます。

 実は特撮で模造紙とワイヤーで巨大折り鶴を作ろうかと思っていたのですが、試行錯誤の末断念。理想の形と動きをミニチュアの操演でやろうとする人数も時間も足りず、CGでやることにしました。

 で、実際に作ったモデルがこちら。簡単なものです。モデル自体は実はシナリオを書いていた頃から作っていたのですが、いい感じのフォルムが出せず羽根の角度や尾の形に随分悩みました。メッシュでCubeから作り、形ができたところでモディファイアでワイヤーにしました。
 かといって折り鶴ってそんなに鶴に見えないんですよね。今回改めて感じました。

 ボーンも至ってシンプルにして制作時間を減らしています。実は生まれてこのかた初めてボーンを使ったものを作品に取り込みました。エチュードでは何度かやっていますが。

 羽ばたきの動きについてはYouTubeにあるオーニソプターの動画を参考に動きをスケッチ、どこにキーポイントを置くか決めて動きをつけました。
 色も単色の予定だったのでマテリアルもいい感じになるように適当にやってます。見せるのも恥ずかしいですが。ただそれだとメリハリが出てこないので胴体中心部などに照明オブジェクトを仕込みました。そうするとちょっと幻想的になりますよね。ならないか。
 CGの照明のいいところって見えなくする事が出来るところですよね、照明本体が。実写だとこうは行きませんから自由自在です。そこ、テクスチャでやれとか言わない。UVやってる間に2ヶ月過ぎちまう。
 レンダリングについては出力時間を短くするためサンプリング数も低めどころか最低値で出してエディット及びコンポジットの作業に移行します。

ポストプロダクション

 今回のワークフローをチャートにするとは以下のような形。

 AfterEffectsとPremiereが同じ位置に居ますが、先にPremiereで編集して尺などを決めてからAfterEffectsでコンポジットしています。そのコンポジットの結果を踏まえてカットごとの尺やカットつなぎを確認します。

 上の画像がBlenderのcyclesでサンプリング数最低値で出したもの。大着してAfterEffectsの作業中の様子をスクリーンショットを撮ったものを切り出しているのでなんか真ん中に出ていますね。すみません。
 そんな事はさておきこれに色々足していくと以下のようになります。

 足したもの:飛行機、飛行機のランプ、背景の雲、ぼかしのエフェクト
 楽しい! そして重い!
 ただやり込み始めるときりがないので締切までの日数と相談しながらどこまでやるかを考えていきます。やりたいものの諦めた事もありました。

 そしてこのあたりで締め切りに関して新しい情報が入ってきました。
 「締切が15日から30日に延長」
 映画祭のTwitterでそんな情報が出ていました。Twitterだけでは不安だったので念の為事務局に連絡を取り確認。本当に延びていたので更に追い込めるところまで追い込んで完パケとなりました。

完成してからの話

 自主製作映画を上映できる機会は映画祭で機会を得る以外には現状あまりないのが現実です。「俺ら、夏鳥」では1時間の中長編という事で単独で上映会を実行しましたがこんな事が出来る作品も稀だと思いますし、10分に満たない短編を単独で上映をやるのも難しいでしょう。
 「新代 鶴舞伝説物語」においても元からエントリーを目指していた映画祭以外の上映についてはあまり決まっていませんでした。ただ巨大な鶴が出てくるということでいずれこちらの映画祭にもエントリーしようと考えています。ここでもT監督の名前がありますね(笑)。ただどちらも上映が確約されているわけではありません。
 というところで厚木のプラネタリウムである持ち込み上映会があることを知ったので今回はそこが初の上映となります。
 行く!という人はこちらのページから申し込んで下さい!

 またロケ地で協力してもらった浅間神社に年末年始には本作品のポスターが出されることになっています。実はここに乗せるQRコードを読むと専用のYouTubeのページに飛ぶようになっています。宮司さんが参拝の待ち時間に楽しんでほしいとの事でこの企画が実行になりました。
 YouTubeやVimeoにあげれば誰にでも見てもらえる時代ですけれども、やっぱりスクリーンの大画面で皆で観たいですよね。見終わった後にあれやこれやと話せるのも楽しいですし。こういう場もいずれは自分で作れるようになりたいなとは思っています。
 BlendxJP3の懇親会で上映会をやったのもこういう思いがあって、昨年のBlendxJP2が終わった時に「懇親会でこういうのやれるんだったら作品集めるよ」って私が主催の鳶さんに言ったのが始まりでした。

最後に

 こんな長い記事をここまで読んでくれてありがとうございます。Blender以外の話もかなり書いたので自主製作映画を作りたい人の参考になればと思います。「こんな事追記して!」なんて声もあればコメント書いて下さい。

 実写、CG問わず自主製作映画はこれからも作り続けるので興味がある方は是非一緒に作りましょう。2019年もオール実写ではありますがある村おこしの映画を作る予定が既にありますので。
 明日はMcLIONさんの記事ですね。よろしくです!
 晩ごはん作る時間を削ってこの記事書いていました。ああ、お腹空いた……

*1:「俺ら、夏鳥」は人力飛行機を舞台にした映画。飛行機のカットでBlenderを一部で使っています。BlendxJP主催のあの方にもモデリング手伝って頂いたのですが、色々あってまだCGカットは完成していません。来年のAdvend Calendarネタはこれかな?